母の闘病記 リハビリ編3

 入院21日目


母は超回復していました。


母は昨晩から一般病棟に移っていました。




病棟の6階へあがり、看護師さんについて病室へ入りました。


ベッドに座った母は嬉しそうに出迎えてくれました。


「遊びに来たよ」


「まあ、うれしい!」


今日の母は『いつもの母』でした。


会話になんの違和感もないのです。


母の発する言葉の95%は解釈不要でした。


私の名前や物の名前は出てきませんが、以前と変わらぬ口調で、以前と変わらない受け答えが続きました。


三日前の面会時も『かなりスムーズになっているな』と感じていたのですが、母の発する言葉には解釈が必要な部分が多く、話す言葉も断片的なものでした。


それが、今日の母は饒舌でした。


本当に言語障害があるの?


そう思うほどによくしゃべっていました。


三週間前は


『もうダメかもしれない』


『母と以前のように話すことはできないのかもしれない』


と思っていたのが嘘のようです。


「お母さんすごいな もうリハビリいりませんって言われるかもな」


「そう!」


母は嬉しそうです。


「明後日 別の病院行くのしってる?」


「えぇ? そうなの?」


「おかあさん言葉が出にくいことあるじゃろ 言ってることと違うことしゃべってるって言ってたよね」


「そう?覚えてないな」


「うまく喋れないのを治してくれるんだって」


「そうなの」


母は、ちょっと不思議そうな顔をしていました。



三日前の母は、


『うまく話せない』という認識があったのですが、


今日の母は『うまく話せない』とは思っていないようでした。


「おかあさん すごく良くなってるから すぐ、もうリハビリしなくていいですってなりそうじゃな」


「そう うれしいな」


「いつまでここに居るのやらって思うの」


「まあ、いいところだからずっとおってもいいか」


「それはー」


二人で笑いました。




持っていったフォトブックを見ながらたくさん話しをしました。


名前が出てこないものが多いのですが


『シフォンケーキとラズベリー』はよく覚えているのです。


よほど好きなのでしょうね。


帰宅したらシフォンケーキとラズベリーのムースを作ってあげようと思います。





「テレビはつけてるけど よくわからない」


私との会話はスムーズに進みますが、テレビのように一方的に発せられる言葉は理解するのが難しいようです。



転院先の病院の入院のための書類に、患者の状態に関する問診票がありました。


食事やお風呂での介助の必要性などの項目がありました。


母に


「お風呂は入ってる?」


と聞くと


首をかしげて


「わかんないんだよ」


と言いました。


昨晩の記憶は失われるようです。


「いいのいいの そんなのわすれていいよ」


「そう?」


母はニコニコしています。


『忘れてしまった』とは思わなくなっていました。


「なんでここにいるのか不思議なんだよ」


「知らんうちにここにおったもんな」


「そうなんだよ 不思議なんだよぉ」


こんな会話の最中もニコニコしています。


悲壮感はありません。


不思議な状況を楽しんでさえいるようでした。





空気の読めない父が


「毎日歩いてるの」


と聞きました。


「わかんないんだよ」


お風呂の事を覚えていないんだからむりだろう


「だいじょうぶよー お母さん上手に歩けとるからな」


「そう! だいじょうぶ?」


「だいじょうぶ 完璧よ」




一般病棟の面会時間は自己申告制でした。


15-20分経ったらナースコールを押してください。


「自分で計るんですか?」

「そうですね 大体ってことで あまり長いようなら見に来ます」


スマホのタイマーを20分にセットしましたが、10分ほど延長しました。



今日の母は本当に楽しそうにしていました。


「ダメだー」とも「どうしてこうなった」とも言いませんでした。


母に関する心配事は一切なくなりました。


母は確実に回復します。


しかも、驚くような早さで


帰宅して一緒に料理をすることもできるでしょう。


フォトブックのお菓子や料理の写真を見ながら


「おいしそう!」


「お家帰ったら全部つくってあげる」


「ほんとぉ!うれしい!」


「これはお母さんも作っとったで 簡単だからつくれるわ」


「そうなのぉ? 楽しみ!」


と会話しました。


確実に実現できるでしょう。


面会終了の時間がやってきました。


「じゃあねー 明後日迎えに来るからね」


「ありがとう」




父と一階のロビーにもどりました。


そこで、入院費の概算を知りたいという父の要望で、私だけ6階に戻りました。



ラウンジで担当の看護師さんを待っていると


リハビリしている母が廊下を歩いてきました。


足取りはかなりしっかりしています。


「おかあさーん まだ居たよ」


「あーうれしい!」


「おかあさんすごいな しっかり歩けてるな」


「そう やった!」


この応答はいつもの母です。


二日前の私ならば、ここで涙が溢れていたでしょう。


でも、今日は笑っていました。


だって、もう、母に関しては何も心配しなくていいのですから


母は廊下を三周して病室に帰って行きました。



今日は本当にいい日でした。




と、終わりたかったのですが、この後、この喜びをぶち壊す出来事がありました。


それに関しては、思い出すだけで腸が煮えくり返ります。


今日はもう思い出したくないのでここまでにしましょう。


おやすみなさい。




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