母の闘病記 リアルタイム通信編

 リアルタイム通信?


電話とチャットアプリのことです。



母は面会時に頻繁に兄弟の名前を口にします。


Aちゃん?」


Tちゃんの・・」


AちゃんとTちゃんは母の兄です。


私の名前は出てきませんが、二人の兄の名前は出てくるのです。


『会いたいのかな 覚えているうちに会わせてあげたいな』


そう思いました。


母の記憶が残っているうちに会ってもらおう。



AちゃんとTちゃんに電話をしてみました。


Aちゃんの電話には娘のA子さんが出ました。


Fちゃん久しぶり A子です」


すみません・・・・


私にはA子さんの記憶が全くありませんでした。



母の状態を説明し面会を提案しました。


A子さんはとにかくよく喋る方です。


次から次へと私の返答を待たずに話し続けます。


それだけ『母の事を心配してくれているのだな』と嬉しくなりました。



父と母は共に富山出身です。


私は父方の祖母と反りが合わず、祖母宅へ行くのが嫌で嫌でしかたがありませんでした。


あまりにも祖母のことが嫌いなので、小学校3年生くらいから、盆と正月の帰省時には長野に一人で残っていました。


今ならば児童相談所に通報されていますね。


その間どうやって生活していたのか記憶にないのですが、快適ではなかったでしょう。


でも、祖母に会うのはもっと嫌でした。


母方の実家には、同年代のいとこもおり楽しく過ごせたのですが、主に滞在するのは父方の祖母宅で、母方の実家にはあまり行かせてもらえませんでした。



私は、アンチ富山になりました。


『富山県など日本には存在しない』そんなレベルで嫌っていました。



そんな事情で、私は親戚づきあいを一切行っていませんでした。


そのため、母がこんなにも姪に慕われていたとは知らずに過ごしていました。



連絡してよかった。




後の連絡はチャットアプリで行うことになりました。





父方のいとこにも面会を打診しました。


H兄ちゃんとT子さんは、5月のはじめに両親が倒れた際の命の恩人です。


あの時の事は本当に感謝しています。


もし、別の場所で倒れていたら、両親は共に命を落としていたでしょう。



電話で母の記憶が残っているうちに面会いてほしいと伝えました。


快諾していただき、後日日程の打ち合わせをしようと電話を切りました。




翌々日が母との面会日でした。


母は元気そうでした。


言葉はだいぶ出やすくなっている印象をうけました。


その日の面会にはフォトブックを用意して行きました。


私の本に載せている写真や家族の写真をレイアウトしたものです。


「あれまぁー へぇー なんだぁ」


「これおかあさんとトラちゃん」


「ほんとう?」


「そうよぉ」


母はじっくりと写真をみてくれました。


でも、たまに


「これ・・・・」


「これは 家じゃな」


「わかんないなぁ ダメだなー」


と言って手で頭をたたき始めました。


「ポンポンしちゃだめよ


だいじょうぶよ」



また別の写真で


「ダメだなー」


今度は背もたれになっている壁に頭をぶつけだしました。


「だめだめ いたいよぉ


もんだいないからね だいじょうぶよ」


「そう?」


母は思い出せない事があることをもどかしく思い始めているようです。


認知症の母の記憶は消えていきます。


消えた記憶が戻ることはないのだと思います。


この先『ダメだー』となる事が増えるでしょう。


『ダメだー』と言って頭を叩く母の表情は悲しげでした。


もうこんな思いはしてほしくありません。


次の面会に持っていくフォトブックは、思い出ではなく、単純なエンタメにする事にしました。



前回のフォトブックで、顕微鏡写真を見た母は


指で丸を3つほど描き、曲線を引いて


「こんなの」


と言いました。


おそらく丸いものが写った顕微鏡写真を思い出したのでしょう。


次作のフォトブックは顕微鏡写真編とお花編にすることにしました。




さてさて、親戚との面会の話にもどりましょう。



次回の面会の予約をし帰宅しました。


帰宅後、A子さんにチャットアプリで、H兄ちゃんとT子さんにはSMSで連絡をしました。



A子さんはチャットでも次々とメッセージを送って来ます。


話は別のいとこの話にも広がりエンドレスに続きます。


家族思いのとても優しい方です。


でも、チャットは終わりません・・・・


食事の用意をしながら、フォトブックの写真を印刷をしながらチャットは続きます。



そんな中スマホに着信がありました。


H兄ちゃんでした。


いろいろ聞きたいことがあるので、メールよりも電話でという事でした。


私は、チャット、電話、フォトブック作成を同時にこなすことになりました。


しばらくメッセージを返せていないチャットには、どんどん細切れのメッセージが入ってきます。


電話をしながら片手で入力するので入力が追いつきません。


電話の内容も頭には入ってきません。


フォトブックは諦めました。


電話からもチャットからも、日程やら場所やらこれから調整する事柄の質問や提案が矢のように飛んできます。




私の親戚はせっかちな人が多いようです。


今回の面会のイベンターは私です。


『運営は私に任せてください』


なんとか電話を切り、チャットを終了させました。


本当に疲れた。


電話やチャットのリアルタイム通信は私の時間を物理的に侵食します。


電話やチャットに使った時間は、私の睡眠時間から差し引かれるのです。



もう眠いんだ・・・・



眠りについて1時間



ピコン! ピコン! ピコン!



スマホとタブレットからチャットの着信音が鳴り響きました。


いとこチャットグループの爆誕です。


スマホをぶち壊そうかと思いました。



母がベッドから転落するなど何か合った際は、夜でも即時電話をしてもらうようにお願いしています。



だから、ミュートにできないんだよ!


無視して寝ようと思いましたが


ピコン! ピコン!


通知は止まりません。


「睡眠時間が足りないので 明日対応させてください」


子どものスマホ規制が検討される理由がわかりました。


みなさん夜遅くまで母のことを気にかけていただいて非常にありがたいです。


こんなにも皆に慕われていたとは全く知らずに過ごしてきました。


いい親戚に恵まれて母は幸せだなと思います。



でも、寝させて。




















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